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顔を合わせ語らう場が心理的安全性を生み出す。不織布の未来を創るチームビルドの一歩

東レで働く一人ひとりに、仕事との向き合い方、大切にしている価値観などを伺いながら、“仕事観”について探っていく連載「わたしの仕事観」。

第3回目は、入社31年目、中国やイタリアなど海外勤務も経験し、この春まで繊維事業本部 不織布・人工皮革事業部門 不織布事業部の部長を務めた安東克彦に話を伺います。「部署内のコミュニケーションを活性化し、部署としての一体感を高めたい」。そんな思いを持って、不織布事業部を変えるべく取り組みました。

安東さんの活動
不織布グローバルオペレーション課、機能素材課、アクスター課の3つの課で成り立つ不織布事業部。同じ部でありながら、素材によって業界や用途、顧客が異なる不織布は、課別、製品別に独立運営の面が強い。さらに、大阪と東京で課が分かれており、課横断のコミュニケーションが不足し、部全体としての一体感を欠いていることが課題でした。そんな状況のなか、安東さんは過去の他部署での経験を基に、月1回集まって雑談をする「職場会」や「東レ不織布を考える会」を起案。少しずつ、部署のメンバーを巻き込みながら、組織を変え、多種多様な素材と“人”の力を掛け合わせることで、既存商売の延長線上ではない新たな価値の創造を目指して活動しました。


「寄せ集めからの脱却」へのチャレンジ

―安東さんのこれまでの経歴を教えてください。

安東克彦(以下、安東):1993年入社で、今年で31年になります。入社後、婦人・紳士衣料部に配属されて約6年間テキスタイルの国内営業を担当しました。最後の1年では海外との仕事、貿易関係の仕事も経験。その後スエード調人工皮革の営業の部署に異動して、約20年間、人工皮革に携わりました。

その間に、中国の上海に3年、イタリアに4年、計約7年の海外駐在を経験しています。2020年にイタリアから帰国して、人工皮革の部長を2年経験後に、不織布事業に携わることになりました。

―安東さんが不織布事業部の部長になられてからの状況を教えてください。

安東:東レの不織布事業部は、不織布グローバルオペレーション課、機能素材課、アクスター課の3つの課で成り立っています。不織布は、糸を織ったり編んだりせず、糸をくっつけたり絡ませたりしてシート状にしたものです。糸の種類やくっつけ方、絡ませ方などによって製品の種類も多く、工場設備で使うようなフィルターや紙おむつなどの生活・衛生材料向けなど広範な用途に使用されています。

製品によって業界や顧客が異なることもあり、課別、製品ごとに独立した事業運営が普通だったんですね。大阪と東京に課があり物理的にも分断されていて、課横断のコミュニケーションが不足し、部としての一体感を欠いているなと感じていました。そんなことを感じている時に、あるメンバーから「どうせうちの部署は寄せ集め部隊ですからね」と言われて…。この状態から脱却し、不織布の価値向上と部署内でのコミュニケーションを活発にすることを目的に、職場会とF2プロジェクトという企画を立ち上げました。もっと部署のメンバーが一丸となり、同じ方向を向いて不織布の未来を考えなくてはと思ったんです。

―具体的にどのような取り組みをされたのですか?

安東:1つは月に1回1時間、部門長や部長を含む部のメンバー全員参加で行う職場会(不織布事業部内では略して「SBK」と呼びます)というミーティングの開催です。テーマは業務報告やコンプライアンスなどさまざまですが、最も時間を費やすのが「雑談」。

司会がテーマを決めて、何人かが発表して質疑応答を受けます。全員の前で話すことに抵抗がある方もいるので、例えば全体で話すパートの後、後半の30分はグループに分かれて雑談の時間にするなど、話しやすくなるような工夫もしました。ちょっとずつ状況やメンバーを変えていきながら、職場会を継続していく必要があると考え、日々ブラッシュアップしていきました。

―以前スエード調人工皮革を担当されていたときも同じような会議を新設された経験があるんですよね?

安東:「ウルトラスエード・ビジョン会議」のことですね。これは、不織布事業部での職場会とは、ちょっと目的が違います。このビジョン会議は、ブランドの方針の変更と、それに伴う強烈な危機感から立ち上げた会議です。

スエード調人工皮革というのは、現在は日本で作ったものをウルトラスエード®、イタリアで作ったものをアルカンターラ®というブランドで販売しています。お互いグローバルに販売していこうと、2つのブランドを強化して切磋琢磨しながら販売することを決めたのが2013年。私はちょうど自動車用途向けの人工皮革の営業課長をやっていた時でした。

2013年までは、日本ではエクセーヌ®、アメリカではウルトラスエード®、イタリアではアルカンターラ®という別々のブランドで展開していたものを、ウルトラスエード®、アルカンターラ®の2ブランドにしていこうという方針になったのです。

ウルトラスエード®というのは、元々日本では知名度のないブランドだったんです。当時日本でアルカンターラ®ブランドを使っていただいていた自動車メーカーの担当者の方にウルトラスエード®について話すと、「東レグループのスエード調人工皮革はアルカンターラ®1つで十分だ。ウルトラスエード®なんて誰も知らないブランドはいらない」と言われて、それがショックで強烈な危機感を覚えたんです。

そもそもウルトラスエード®がどういうブランドなのか、当時は我々の中でも定まっていなかった。まずはどういうブランドにしていきたいか、どんな価値をお客さまに認めてほしいのか、我々が決めていかなければならないということで始めたのが「ウルトラスエード・ビジョン会議」でした。

東レの不織布

―「ウルトラスエード・ビジョン会議」を参考に、不織布事業部でも、東レ不織布の将来ありたい姿を徹底的に議論する会議を立ち上げたとお聞きしました。

安東:そうです。「ウルトラスエード・ビジョン会議」を参考に発足したのが「東レ不織布を考える会」です。東レ不織布のありたい姿を議論していたのですが、実は他の課がどんなことをやっているかをあまりにも知らないという状況が明らかになり「東レ不織布交流会」に名前を変え、まずは各課がやっていることをお互いに知ることを目的にしました。

そして現在は「F2プロジェクト」として課横断のグループで新製品・新規用途・新商流への新たなチャレンジを推進する形になっています。F2はFuture Fushokufuの意味です。F2プロジェクトにより素材や課を横断させ、人も素材も混ざる。そこで何か新しいことができないかという試みです。

もう一つ取り組んだのが「東レ不織布サイト」の立ち上げです。不織布を探している人、東レの機能素材を探している人に対しての訴求をしながら、「東レ不織布」をブランド化して明確なビジョンを発信することが目的です。(今夏公開予定)

不織布でも「いろんな製品がある」ということを強みに、それらを組み合わせて新しい価値を生み出せないかということを目指しています。

―ウルトラスエード事業部での経験を不織布事業部に応用するのはスムーズにできたのでしょうか?

安東:ウルトラスエード事業部は1つのブランドなので分かりやすいんです。しかし、不織布事業部はいろいろな製品を取り扱っているので、まったく同じやり方はなかなか難しく、実際にやってみながらやり方を変えていく必要があると思っていました。

F2プロジェクトの会議の様子

―いろいろな取り組みを始められて、チームのメンバーはどんな反応でしたか?

安東:最初はやっぱり少し冷めていたり、距離を置いたりする人もいれば、「一緒にやりたい」「ぜひやろうよ」っていう人もいて、反応はさまざまでした。強く問題意識を持っているメンバーもいて、「せっかく同じ部署で働いているんだから、理解し合って1つの方向を向いてやっていきたい」と言ってくれる人もいましたね。聞けば、「隣の課の人が何をやっているのか全然分からない」と。

コロナ禍でなかなか対面でのコミュニケーションが難しいタイミングだったのですが、職場会やF2プロジェクトを始めた頃、あるメンバーから「日常業務だけでは行き詰まることも多くてしんどい。何か新しいことをやりたい。こういう取り組みは新しいチャレンジに背中を押してくれる」という言葉をもらって勇気づけられました。

「隣の人が何をしているか知らない」状態から一変

不織布グローバルオペレーション課 課長(取材当時)川上龍哉さん(モニター)、同課 笹谷郁子さん(写真右)

―一緒に職場会、F2プロジェクトに取り組んだ川上さん、笹谷さんにもお話を伺います。安東さんのチャレンジを見ていて実際に社内の雰囲気に変化はありましたか?

川上:雰囲気はすごく変わったと思います。安東さんがウルトラスエード事業部から異動して来られて職場会が始まるまで、部署全員で集まる場所ってなかったんです。今は課が3つありますが、やっていることもみんなバラバラ。販売会議や管理職以上の人が集まってコミュニケーションを取る場はありますが、全員で一堂に会する場が当たり前のように無かったんです。僕らも全然不便には感じていなかったし、それで成り立っている部分もあった。

でも、あらためて「不織布事業部に集まる場がないってやっぱり変だよな、やっぱりあったほうが良いんじゃないか」と、安東さんがそれまでの経験を通して思われたのだと思います。無意識に当たり前になっていた環境へ変化を投げかけてくださったのは、とてもありがたいことでした。

安東:会社で何か新しいことをやろうとすると「で、なんぼ儲かるんや」っていう話になりがちなんですよね(笑)。短期的な成果も大事ですが、こういうコミュニケーションを取ることによって、お互いの人となりが分かって話しかけやすくなるし、職場会で雑談をすることによって、コンプライアンスの不正防止にもつながるんじゃないかなと私は思っていて。

要は、何か違和感を抱えているけど「これはやっぱりおかしいな、ちょっと言ってみようか」っていうことを、パッと言えるようになる。そういう雰囲気は心理的安全性の向上にもなるんじゃないかなと思います。何か問題があったとき、一人で抱え込まずにすぐ言える、相談できるという環境は大切ですよね。

笹谷:そうだと思います。以前は固定電話が当たり前でしたが、今では個人の社用携帯に電話がかかるようになりました。それは最初すごく便利だなと思ったのですが、最近では誰がどういう人と連絡を取っているのかまったく分からないんです。昔なら「◯◯さんから電話がありました」と取り次いだり、そのお客さまの対応をすることでなんとなく人となりも見えたりしていたけれど、そういうことがまったく見えない。

意識して情報共有し合わないと自分しか分からないことも多いんですよね。だから、自然と人となりを共有し合える職場会はすごく良い場になっていると思います。

取材時にフロアにいた不織布事業部のみなさん

―ご自身の動き方やチームの巻き込み方で、どんなふうに難しさを乗り越えましたか?

安東:私がウルトラスエード事業部で「ウルトラスエード・ビジョン会議」をやり始めたときに、キーになったのは課長より少し下の中堅の担当者ですね。実際に動く現場の担当者がその気にならないと、上司がいくら言っても動かないと思いましたので、何人かリーダーを決めて、彼らに主体的に動いてもらうという枠組みにしました。

これは結構我慢が必要なのですが、部長や課長などの上司はあまり口出しをしないことが重要です。もちろんアドバイスなど必要なことは言いますが、極力口を出さず任せる。短期的な成果を追い求めるものではないので、時間がかかってもみんなで一緒にやっていくということと、プロセスが大事だという話をしました。「結果がついてくればハッピーだけど、結果が全てではなく、そのプロセスにもさまざまな学びがあるから、プロセスをみんなで楽しもうよ」と、そういうことは何回も言いました。

短期的な成果の重要性はみんなよく分かっているから上司から言われなくても意識しますが、成果が出るまで時間のかかる開発などは日常業務に追われてどうしても後回しになってしまいますから、そこを後押ししたいという気持ちもありました。

―笹谷さん、川上さんは今後、「この活動がこうなってほしい」などの思いがありますか?

笹谷:もちろん継続していってほしいです。続ける中でまた違う形に進化していくのも良いと思います。今は大阪が中心となっていますが、やっぱり東京と大阪も同じ部署なので、ちゃんとコミュニケーションがとれる場が必要。

どちらかが疎外感を感じないような枠組みにしていくことも目指したいですね。月1回でもいいからオンラインでコミュニケーションを取れるだけでも「最近元気なのかな」とか、なんとなく気にかけるようにもなりますから。

川上:コミュニケーションが取れているように見えても、こちらが思っていることが伝わっているのか不安になることもあるので、きちんと伝わるためには意識して場を作っていくことが必要だと感じています。

31年の経験を振り返って思う、仕事観とは

―そもそも安東さんがそういう考えを持つようになったきっかけは?

安東:イタリア駐在時代の上司に、「たしかに数字は大事だ。ただ、あまり目先の数字のことばかり気にし過ぎると、どうしても短期的な対策しかできなくて、中長期のビジョンを狂わせかねない。数字だけにとらわれるな」と言われました。「数字というのは分かりやすいから、みんなそこに逃げるんだ」と。

逆に将来のビジョンや中長期の方針を語ることは、実はすごく難しい。おそらく得意な人はあまりいないのではないでしょうか。たしかに企業である限り「なんぼ、儲かるんや」も重要ですが、それだけじゃ駄目。目先の数字に追われて疲弊して、素材メーカーの本来の仕事である新商品開発や新規用途開拓の仕事が楽しくできないのは良くない。東レの社員としての誇りが無くなるような状況を打破したいという思いがあったんです。

―今までの経験やここでの取り組みを通して、あらためてご自身の仕事観や大切にしていきたい働き方の軸について教えてください。

安東:東レの理念とすごくつながるなと感じた2つのことがあります。1つは、「開拓者精神」です。私は人工皮革の分野が一番長かったのですが、人工皮革も不織布も、やっぱり新しい用途を開拓していかないと未来は無い。用途開拓そのものが事業の未来を決めるという特性があります。新規用途もそうですし、新しい市場や新しいお客さんもです。

私は中国に3年間駐在しましたが、それまで人工皮革の営業担当では中国駐在はいなかったんです。ゼロから中国の販売拠点を立ち上げて、今は技術者を含めて日本人3人の駐在員を置くまでになりました。

常に新しいことをやっていかないと未来が無い、成長が無いというのはずっと感じていることです。31年間働いてきて自分がやったことを振り返ってみると、リスクや失敗覚悟で新しいことに挑戦していくことが自分の中で大切にしている軸なんだと思います。

もう1つは、やっぱり「人を基本とする経営」。「仕事は、1人でやっているんじゃないぞ。おまえ1人では何もできない。なぜお客さまと簡単にアポイントが取れるのか、それは東レの看板があるからだ。そういうことにちゃんと感謝しなさい」と昔、上司に言われたことがあるんです。厳しい言い方ですが、東レという会社を築き上げてきた先輩方、製品を作ってくれる工場の生産現場の方、開発してくれる技術の方、そういう人たちへの感謝の気持ちを忘れないように、ということだったんだと理解しています。

その経験が、F2プロジェクトや職場会にもつながっています。部長や課長が1人でいくら頑張っても、部の全員で同じ方向を向いていかないとなかなか成果は出せない。だからこそ、会社のため、組織のために、言いにくくても言うべきことは言っていこうと。そうやって個人が成長することが、組織の成長にもつながるはずなので。それって結局は東レが掲げる、「人を基本とする経営」につながるんだと思うんですよね。

安東克彦
1993年入社。入社後、婦人・紳士衣料部にて約6年間テキスタイルの営業を担当。その後、20年にわたり人工皮革事業に携わる。2年間の不織布事業部の部長を経て、2024年4月に経営企画室に異動。(取材は異動辞令前に実施)これまでの経験を生かし、現在は全社のマーケティング戦略などに取り組む。休日はランニング、映画鑑賞などをして過ごす。

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