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コミュニケーションを通して自分の世界を広げていく。新素材を探求するチーム力の秘密は失敗からの学び。

東レで働く一人ひとりに、仕事との向き合い方、大切にしている価値観などを伺いながら、“仕事観”について探っていく連載「わたしの仕事観」。

第6回目は、化成品研究所に所属する石川徳多いしかわのりかずに話を伺います。「仕事において、コミュニケーションは欠かせない」、そんな思いを持って、リーダーを務めるチームでもコミュニケーションを大切に、部署内のみんなと交流できる場への業務部屋の移動を提案してチームメンバーとの結束も強くなったとのこと。自身の理想の働き方や仕事で大切にしていること、チームメンバーからの声を聞きました。

石川さんの仕事
「グリーンとナノの融合」をコンセプトに、サステナビリティ社会とモビリティ変革に素材で応える化成品研究所に所属。入社から一貫して炭素繊維複合材料用のマトリックス樹脂の開発に携わる。特に、航空機尾翼の製造現場での実習、開発したマトリックス樹脂の海外での試作・採用までを経験。また、部署内の会話不足の課題を解消すべく、空きスペースにコミュニケーションスペースを設置することを提案。チームメンバーだけでなく、部署内外の交流を活発にするきっかけになりました。


世の中に役立つものづくりがしたい

石川徳多。2016年入社。「グリーンとナノの融合」をコンセプトに、サステナビリティ社会とモビリティ変革に素材で応える化成品研究所に所属。入社から一貫して炭素繊維複合材料用のマトリックス樹脂の開発に携わる。

―石川さんの普段のお仕事について教えてください。

石川徳多(以下、石川):化成品研究所に所属していて、2016年入社の9年目です。化成品研究所は、熱可塑性樹脂の1つであるナイロン樹脂のように強度と耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックを開発する部署です。複数のポリマーをナノメートルオーダーで微分散させることで、従来材料と比較して飛躍的な特性向上を発現させることができる当社独自の革新的微細構造制御技術「NANOALLOY®」はここで生まれました。

私はその中で、普段は炭素繊維複合材料向けのマトリックス樹脂の研究開発をしています。熱硬化性樹脂という、混ぜると固まる接着剤みたいなイメージの樹脂を扱っています。東レの炭素繊維複合材料の性能を引き出すためにも必要な樹脂です。

―石川さんが東レに入社したきっかけはなんだったのでしょうか?

石川:東レは繊維以外だと高分子化合物の会社というイメージが強く、学生時代に高分子化合物の研究をしてきた人が多い印象です。一方、僕は大学で合成化学と生物化学を専攻し、太陽光を活用することで二酸化炭素を炭素源とする有機合成反応の研究に打ち込んできました。具体的には、低分子化合物を作って医薬品を合成する新しい経路のアプローチをしてきたのですが、最終的にできる低分子化合物は純度100%でも純度80%でも見た目は全部白い粉なんですよ(笑)。

仕事にするなら、物としてより形のあるものを作りたい、ものづくりでお客さんの手に渡ってありがとうって言われたいという気持ちが強くなりました。東レの素材は車や航空機以外にも世の中のさまざまなところに使われているので、いろいろな物が作れるのではという気持ちで入社を決めました。

新しい研究の種をみつけるために

―今は具体的にプロジェクトとして動いているものはありますか?

石川:入社してからずっと関わっていた、自動車用途の樹脂開発がひと段落し、最終製品として消費者の元に届き始めたところです。今は次の研究材料を探している段階です。主力製品以外に、+αで将来の種になるようなところを探してほしいと言われていて。

―どんな風に探すんですか?

石川:今まさに情報を集めているところです。炭素繊維複合材料に関しては、東レ社内にデータや過去の知見、プロフェッショナルな人材も含めて圧倒的な情報量があるので、上司や顧問、繊維を扱う部署や営業の方たちにも声をかけて情報を集めています。新素材に取り組むベンチャー企業も増えていますが、大企業の強みを生かした研究方法で、新しいニーズを先取りしたいと思っています。

―新しい素材を提案するとき、すでに顕在化しているニーズや課題に対してアプローチすることが多いと思いますが、まだ顕在化していないニーズを捉えていくこともあるのでしょうか?

石川:そうですね。「軽量化」というニーズは長年あって、東レの先人たちがより軽いものを追求して研究を重ねて、既に良いものをたくさん開発している状況です。

これからは軽いだけじゃない、さらなる炭素繊維複合材料の良さみたいなものと、お客さまの要望がマッチするところを探していきたいと思っています。もちろんこれまでの情報や知見も整理しながら、0から1をいきなり生み出すのは難しいので、0.5あるいは0.1くらいの種をまずは探しています。

―研究を進める上での変化のタイミングなんでしょうか?

石川:専門分野をとことん突き詰めて、「極限追求」「超継続」で研究するこれまでの研究スタイルも、もちろん大事です。しかし、時代の変化に合わせて、専門分野以外の情報も積極的に取り入れて、組み合わせて新しい価値を生み出していく必要もあると感じています。

最近は、これまでよりも幅広い分野の大学で学んだ学生の入社も多く、さまざまな知識が集まりやすくなってきています。時代の流れが早くなり、開発に時間をかけていられないっていうのも正直ありますし、先手先手で開発しないといろいろな分野の先取りもできない。まずは新しいことに飛び込んでみようという流れになっていると思います。

「人に聞く」ことが、最初のきっかけになる

―研究の新しい種を探すために部署を超えていろいろな人に話を聞いているとのことでしたが、これからの働き方で大切に感じることはどんなことですか?

石川:どれだけ情報を集められるか、そのためにコミュニケーションは必須だと思っています。隣の人が何をやっているかわからない状況だと何も広がらないし、自分の世界から出られないと思うんです。やっぱり人に聞くということが、最初のきっかけになってどんどんつながっていくのだろうなと。

―石川さんは部署内に社員のコミュニケーションスペースを発案されましたが、そこにもつながりますね。

石川:そうですね。僕たちのチームは、築40年以上の化成品研究所の建屋の3階から、さらに屋上に出たところにある通称”プレハブ”と呼ばれている場所が居室だったんです。よほどの用事がない限り、他のグループの人が足を踏み入れにくい場所で、他部署はもちろん、同じ部署の他のグループとのコミュニケーションの機会はほぼない状況でした。コミュニケーションがない状況で目の前のことだけに専念することには違和感がありました。

そこで、他の階で空いていたスペースを整備してコミュニケーションスペースを作ることにしたんです。

―変化はありましたか?

石川:はい、他のグループとのコミュニケーションの機会は圧倒的に増えました。またチーム内の一体感や協調性が生まれましたし、それによって各自のテーマの相談や指摘もスムーズになるという予期しないポジティブな変化もありました。自分自身、足りないものを補うために自分たちで主体性を持って行動し、より良いと思う環境を話し合うというマインドが生まれました。

身をもって実感したコミュニケーションの大切さ

左から化成品研究所の土田紘也、鈴木真琴、石川、片山雄貴

―今日は同じチームの後輩の3名にも参加していただきました。

石川:入社7年目の土田さん、4年目の鈴木さん、2年目の片山さんと僕の4人のチームで、新しい樹脂の開発に取り組んできました。今年の4月に鈴木さんは、化成品研究所から樹脂技術部に異動しています。

―石川さんはどんな先輩ですか?

鈴木:すごく頼りになる先輩です。部署の事情もあり、若くしていきなりチームリーダーになって大変だったと思うのですが、テーマの状況や情報の共有もしっかりしてくれるし、手探りの状態のときもそれを隠さず共有して一緒に考えてくれるので、精神的にもとても安心して働けました。

土田:相手が望んでいることに的確に答えたり、相手のためになる情報を提供するのがとても上手。社内や上司、社外も含めて交渉が上手なイメージです。

石川:コミュニケーションスペースを作るのに、実際に手を動かしてくれたのが当時1年目だった片山さんです。

片山:入社していきなり思っていた仕事と違うことをやらされているなという気持ちはあったんですけど(笑)、ある意味刺激になって楽しかったなと思います。

―コミュニケーションスペースを作ったことで自分たちの仕事も変わりました?

土田:コミュニケーションは圧倒的に増えました。今までは本当に隔離された部屋で基本的に同じ分野をやっている人としか喋らなかったんですけど、ここに来るとデジタル分野の研究をしている人もいたり、隣の部屋では熱可塑性樹脂をやっていたり、いろいろな部署の人との距離が近くなるので、雑談も含めてたくさんの刺激をもらえます。

片山:”プレハブ”にいたら普段喋れないような人と話す機会もあるし、こういう場所だと話しかけやすさもありますね。そのおかげで深く関わりを持てるようになったかな。作って良かったなと思っています。

―石川さんはいろいろな情報や意見を集めて研究、開発に取り組んでいるという話をしてくれましたが、みなさんの意見やアイデアも共有しているんですか?

鈴木:もちろんです。毎朝ミーティングをして状況を共有していましたし、話しやすい雰囲気を作ってくれています。ここの空間が話しやすい雰囲気なので、いつでも遠慮せず気兼ねなく相談できる環境でした。もともと相談をしやすい空気を作ってくれていましたが、この場所ができて、よりしやすくなったと思います。コミュニケーション量は10倍以上。1日3人ぐらいしか話さない生活から、いろいろなチームの人と話せるようになって、知識も情報量も桁違いに増えました。

土田:このチームに入って3年くらいですが、3年目にしてようやく「近くにこんな人いたんだ」というくらい。先輩だと思っていた人が実は後輩だったとか(笑)。あらためて狭い世界にいたんだなと実感しました。

―みなさんはこれからどんな働き方をしていきたいですか?

鈴木:私は他部署に異動しましたが、このチームにいてコミュニケーションの大切さを感じることができたので、その点を意識して今の部署内ではもちろん部署間も交流を増やしていきたいです。

片山:鈴木さんと同じになってしまいますが、これからもこのスペースの要素を取り入れて、話しやすい雰囲気作りを意識できたらと思っています。

土田:自分が大切にしていることの1つに、楽しく研究したいというのがあるので、良いことも悪いことも言い合える研究部署にしていけたらと思います。

「失敗」が好き。試行錯誤して失敗から学ぶこと

―あらためて、働き方や仕事をする上で、石川さんがコミュニケーション以外でも大切にしている考え方を教えてください。

石川:僕は、失敗するのが結構好きなんです。10個ボールを投げて1個しか当たらないって嫌いな人は嫌いじゃないですか。個人的には失敗がないと成功しないんじゃないかと思っています。「なんで失敗したんだろう」と考えることが大事。9回の失敗があっても、そこから考えて1個のボールを当てるのだっていいじゃないですか。だから、失敗っていう言葉が僕は好きなんです。あんまり共感してもらえないですけど(笑)。

―そう思うようになったきっかけはなんだったのですか?

石川:小さい頃からです。小さい頃、四字熟語を習字で書くというのがあって、「試行錯誤」っていう四字熟語を選んだんです。そうしたら担任の先生に「それってあまり良くない言葉じゃない?」と言われて、「そんなことないやろ」と思ったんです。どういう意味で「良くない」と言ったのかは今も分からないですが、成功することが大事で、泥臭いところは見せないのが良いという意味だったのかもしれません。個人的には泥沼の中でもはい上がれば良いと思っています。

生まれ育った環境も影響しているかもしれません。僕が育った香川県の町は大学が無いので、高校を卒業するとみんな町を出ていくんですよ。就職で帰ってくる人もいないので、出会う大人がおじいちゃんやおばあちゃんばかり(笑)。高校生からすると「大学生ってどんな風に過ごしているんだろう」とか「大人ってなんだろう」っていう感じでした。

未来が分からない状況で、進学先などさまざまなことを選択していくことになるので、当然失敗するし、やってみてやっぱり違うなと思ってまたやり直すことも当たり前。正解とか王道という感覚が元々無いのかもしれません。むしろ失敗や非効率から得ることはたくさんあるし、それが大事という考えが小さい頃から身についているのだと思います。これからもそこは変えず、試行錯誤するために失敗しながら、取り組んでいきたいですね。

石川徳多
2016年入社。「グリーンとナノの融合」をコンセプトに、サステナビリティ社会とモビリティ変革に素材で応える化成品研究所に所属。入社から一貫して炭素繊維複合材料用のマトリックス樹脂の開発に携わる。休日は趣味のブルーベリー育成や、家族で名古屋周辺のおいしい店を探索して過ごす。

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