埋もれた本音を掘り起こす。購買・物流部門でのクロスファンクショナル活動から見えてきたもの
東レで働く一人ひとりに、仕事との向き合い方、大切にしている価値観などを伺いながら、“仕事観”について探っていく本企画。
第4回目は、購買・物流部門 資材部設備第2課の内生蔵 知宏に話を伺います。「本音での議論があってこそ、成長できる。思っていることを言い合える組織でありたい」。そんな環境を目指して、組合員がもっと本音で語れる機会を作ろうと取り組んだ活動を通して見える、仕事観や思い描く理想の働き方について聞きました。
会社が掲げる理念と社員が抱く実感とのギャップ
―普段のお仕事について教えてください。
内生蔵 知宏(以下、内生蔵):東レでは、繊維やフィルム、炭素繊維複合材料などさまざまな素材を作っていますが、それらを作るための製造設備の購買担当をしています。なかでも、私はフィルム製造設備の購買担当で、フィルムを延伸する設備や、出来上がったフィルムの巻き取りやスリットをする設備を購入する仕事をしています。
良い設備をリーズナブルに購入するため、設備の査定をして価格交渉の目標金額を決め、あの手この手で取引先と価格交渉をしています。海外から設備を調達することもあり、先日も価格交渉でヨーロッパに行ってきました。
―内生蔵さんはキャリア採用だそうですね。
内生蔵:以前は自動車メーカーに勤務していたのですが、川下産業だったので、もっと川中・川上の産業を見てみたいという知的好奇心がありました。原料や素材を作っているところ、かつ、業界ナンバーワン、オンリーワンの製品がたくさんある、そんな環境で挑戦したいという気持ちから、東レに転職しました。
―組合員が本音で語れる機会を作ったと聞きましたが、どういう経緯があったのですか?
内生蔵:東レの経営思想(東レ理念)を全社・全社員に浸透させることを目的とした「TP(Toray Philosophy)プロジェクト」という活動がコロナ禍の2020年~2022年に実施されたんです。本部、部門、部・室、課などの単位で、東レグループで働くことの意味や将来像などについて話し込みをしようというものでした。購買・物流部門では「東レ理念が描く仕事像」と「組合員が抱いている実感」との間にギャップがあることが分かり、部門長も、そのギャップに課題感を持っていました。
そこで、メンバー各々が考えていることをもう少し深掘りしてみようという話になり、部門を構成する4つの部署のメンバーの中からそれぞれ1〜2名選抜して計6名の「購買・物流部門クロスファンクショナル(KCF)チーム」を結成することに。私はKCFチームのリーダー役に手を挙げました。
―みんなの本音を引き出そうということで始まったのですね。まずは何から始めましたか?
内生蔵:こういった話し込みをすると、ともすれば当たり障りのない内容の議論になってしまいがちですが、ギャップが出ている時点で、現実(本音)をしっかり意見できているんだなと感じていました。
そこからさらに踏み込んだ議論をすべく、まずは「仕事へのモチベーション」「キャリアプラン」「仕事で不安に思うこと」などをテーマに、KCFチームのメンバーがファシリテーターになり、各部署の組合員4~5名の少人数グループに分かれて意見交換をしました。少人数というのがミソですね。5人以上になったら皆から本音トークを引きだすのが格段に難しくなると思っています。話し込みの結果、ポジティブな意見からネガティブな意見までさまざまあったのですが、出てきた課題一つひとつを1年半かけて潰していきました。
―具体的に教えてもらってもいいですか?
内生蔵:例えば、資材部では、1事業に対して原則担当者は1人しかおらず、また、1案件で億単位の契約になることもしばしば。それを自分で相見積もりを取って価格交渉し、ハンドリングしていくのですが、若手からは「OJTで教育を受けているものの、正直とても不安です」という声が挙がりました。
そこで、繊維の設備購買を担当する若手が悩んだときは、フィルムの設備購買を担当する私が価格交渉の場に同席して客観的なアドバイスをする。このように、事業間でオーバーラップさせることを管理職に提案し、そうすることでお互いにいろいろな気づきを得ることができました。
当然、1年半の活動でやれることは限られているので、今は次世代にバトンを渡して2周目を走っているところです。
間違いを恐れずに、まずは言いたいことをしっかりと言うこと
―内生蔵さんがKCF活動を経て、意識していることはありますか?
内生蔵:やっぱり、思ったことを言う、言わせることですね。特に若手にはそうしてほしいと思っています。自分が間違っているかもしれないと思って意見しない人もたくさんいるんですよね。自分の意見が正解かどうか分からないからって。でも、まずは言ってみて、間違っていたら謝ればいいだけの話なので、とにかく発言しようということを普段から伝えています。
―とは言っても、言いたいことを言う、本音をぶつけ合うって難しくないですか?
内生蔵:相手のこともありますし、簡単ではないですよね。そう思って、KCFチームがそれぞれの意見を聞いて橋渡ししましたが、話の角を取らないので、結局直球のボールを渡しただけ(笑)。変にオブラートに包んで「いや、そういうことが言いたかったんじゃないよ」とならないように、あえてストレートに伝えることを選びましたね。
―実際に意見を吸い上げてみて意外だったことはありますか?
内生蔵:もっと上司部下で意思疎通ができていると思っていました(笑)。ただ、よく考えると、上司が直接部下に職場環境や悩みを聞いても、部下はついつい「大丈夫です」と言ってしまいますよね。だから上司は現状に問題は無いと思ってしまう。これはどこの組織にも起こりうると思っていて。
吸い上げた意見の中には、「課長が何をしているか分からない」という辛辣な声がありましたが、課長たちは面食らっていましたね。
でも、KCFチームが間に入って課長にヒアリングしてみると、課長がどういう思いを持って仕事に取り組んでいるか見えてきて、意見を出した組合員も「裏でそんなことをしてくれていたとは知りませんでした」と気づくこともありました。
また、ネガティブな意見に対して、思ったよりも上が受け止めてくれたことも意外でした。具体的には「言ったもん負け」という言葉がパワーワードとして挙がってきました。改善すべき点に気づく人っているじゃないですか。「ここを変えたらきっと良くなるのに」って。でも、それを言うと「いいね。じゃあ君がやっておいて」という話になる。「ただ自分の仕事が増えるだけだから、言わない方が良い」「トラブル報告の際、原因究明や対策案なしに報告しにくい」「速報と事実が異なっていた場合、咎められるのではないか」などのマインドの人が一定数いました。
こういったネガティブな意見もしっかり上と共有し、「言ったもん負けにしない」「バッドニュースファーストを奨励する。原因究明と対策は必ずしもセットである必要はない」「担当者任せにせず、改善したことはしっかり評価する」といった宣言を部門長から発信してもらいました。
―先輩の前川さんはから見て、内生蔵さんはどんな印象ですか?
前川:こんなエネルギッシュなやつは珍しいですよね(笑)。いろんなことに挑戦しているなと。それが仕事にしっかりと表れているのですごいなと思います。
購買・物流部門は東京・大阪にまたがりますが、「大阪発で何かをやってやるぞ」という気概を感じられて、非常に頼もしかったです。KCFチームのリーダーというポジションもあったとは思いますが、ビジョンをしっかり持ってできたというのは素晴らしかった。こういう想いを持った人間が1人いると、周囲も巻き込まれて、社内の意識も変わっていくのではないかと期待しています。
リーダーとして引っ張っていくときというのは、ちょっと行きすぎるぐらいやっても良いと思うんです。そんな姿を見て、後輩も「もっと言ってもいいんだ」と思うだろうし。お手本になっていると思います。
内生蔵:ありがとうございます。副次的な効果として、これまで関係が希薄だった部門内他部署の担当者同士が、仕事の相談をしたり、アドバイスを受けたりとやりとりが増えたことも良かったですよね。仕事のやりがいや面白さにもつながっていくと良いですね。
自分で突き詰めて見つける、仕事の面白さとやりがい
―内生蔵さんは、仕事の面白さはどんなところにあると思いますか?
内生蔵: 購買の仕事ってめちゃくちゃ面白いですよ。ありがたいことに、東レの購買はかなりの裁量が担当者に与えられています。社内外との調整のためのバランス感覚や、関係部署を巻き込む推進力、取引先との信頼関係などがあれば、「今回はこういう視点でこういうことにトライしてみよう!」という自分の想いやアイデアを、ある程度形にできるところがとても面白い。
「ただ安く買う」ということではなく、1社購買から複数社購買に持ちこむために社内を説得したり、社内を説得するために取引先をモチベートして、欲しいアウトプットを出してもらったり。ゴールを決めてそこからやるべきことを逆算し、キーパーソンを見極めて味方に引き入れて、自分の描いたシナリオ通りにことが進み、結果安く買える。こんな楽しいこと他にあります?(笑)。裏を返せば、想いもなく何も考えずにただ仕事をこなしていると、劇的に面白くない仕事にもなってしまいます。
前川:購買の仕事は、購買依頼が来て、それを右から左に流すこともできてしまうけれど、それだと誰でもできてしまう仕事。本当は仕事って、自分でひと味もふた味も付けられるものなんですよね。そうすることでもっと新しいことをやりに行けるんですよ。働く目的って人それぞれ。でも生きている時間の多くを仕事に割いているので、つまらないままやりたくない。かといって仕事内容も選べない。
じゃあ今の仕事ってそもそもそんなにつまらないのか、もっと面白くしたら良いじゃないかというところを自分で見つけていくことが大事。自分で探すからこそ、働く原動力になると思うんです。「これってやっぱりおかしいですよね」とか「こういったところからちょっとやってみたいんだけど」みたいな。そんな提案をしてほしいし、提案された側はしっかりそれを受け止めないといけない。そういったところを組織としても大切にしていけると良いですよね。
内生蔵:そうですね。当たり前の話ですが、思ったことを言い合える組織であるべきで、そうじゃないと成長はついてこないと思っています。本音での議論があってこそ、成長できる。KCF活動を通して、最初は課長に対して意見を伝えるところから始めて、それが部門長の後押しのもと部門全体に広がり、幸いにもうちの部門は本音で議論ができる組織であることが分かりました。KCF活動の成果をもっと他部署にも広めたい、さらには会社全体にも広めていきたいと思っています。