若手研究者が語る、東レでの今とこれから。
入社後3年目~5年目、自分の担当領域も見えてきて、組織や会社の動きも見えてきている頃。東レの未来を担う世代でもある3年目~5年目の社員はどんなことを考え仕事に取り組み、東レという場でどんな未来を描いているのでしょうか?
若手の社員に集まってもらい東レで働くなかで掴みつつある未来への展望を語り合う連載「未来への糸口」。
今回は、東レにある9つの研究所の中で、先端材料研究所、地球環境研究所、電子情報材料研究所、フィルム研究所に所属する若手研究者4名が集まり座談会を実施。さまざまな領域でイノベーションの創出に挑む若い研究者たちが、仕事での気づきや課題について話しながら、理想の働き方や思い描く未来について考えます。
コツコツと真面目に課題と向き合う。入社後に感じた東レのイメージ
―今日は入社3〜5年、所属部署も違う若手社員に集まっていただきました。入社前に持っていた東レのイメージから入社後の今で何か変化はありますか?
阿久津みく(以下、阿久津):私は最初、東レのイメージと言われても正直ピンときませんでした。就活のときに総合化学メーカーをいろいろ見て思ったのですが、大きな会社というのは何をやっているのかがよくわからないことが多い。会社の説明会やウェブサイトでは、サステナビリティや環境、社会貢献といった大きな言葉が並ぶけど、実際何をしているんだろうって思っていました。
入社して働いてみて、解像度が上がってきた今感じるのは、やっていることは地道で泥臭いことの積み重ねだな、ということです。社員も真面目な人が多いなという印象です。
田中 慧(以下、田中):僕は東レに入社した大学研究室の先輩から、楽しそうに研究開発している人が多いという話を聞いていました。入社してからもその通りだなという印象です。真面目な人が多く、真摯に自分のテーマに取り組んでいる印象です。実際に入ってみると、新しい挑戦や試作に対して寛容な空気があり、僕も楽しく研究できています。
山本舜也(以下、山本):自分はそういう前情報なしに入社したのですが、一番不安だったのがやりたい研究ができるのかっていうところ。やりたい研究というと少し自分勝手に聞こえてしまうかもれませんが、自分にマッチした研究ができるのかというところが気になっていました。企業に入ると事業的にインパクトのある研究が重視され、純粋に未来につながるような研究は難しくなるような気がしていたんです。
実際に入ってみると、事業的に必要な研究とサイエンスとして重要な研究を上手く両立してバランスよく研究している会社なんだなと思いました。なので、将来的に役に立つものを探求しながら、現時点でお取引先の役に立てる製品も創出していける研究を両立できている印象です。
北村愛美(以下、北村):東レの掲げる「極限追求」という言葉通り、いろいろな知見を持っている人が参加するミーティングがあったり、もっともっといいものを作ろうと追求しているということは、日々の業務の中でも実際に感じます。
一方で、骨格がまったく違う新しい材料にもチャレンジする姿勢もある。まさに企業理念の「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」と「極限追求」の両方が生きているなと思います。
もう学生とは違う。社会人としての自覚と責任
―学生としての研究と、東レ社員としての研究で取り組み方が変わると思うのですが、気持ちの変化があったタイミングはありましたか?
阿久津:報告資料やプレゼン資料のように人に見てもらい、理解してもらうものを作るというのは難しいなと会社に入ってから思いました。それでも、資料のような形に残さないと成果とは言えないと思う部分もあります。だから、人に伝える・見てもらうことも仕事だと思って戦っています。
あとは、以前、上司と一緒にお取引先のところに伺ったとき、「自分は下っ端だから」みたいな気持ちがどこかあり、お取引先からいろいろ質問されても「上のほうが詳しいので」と横に流してしまったということがありました。その時「今、自分はすごくダサいことをしているのかもしれない」と思ったんです。お取引先から見たら、若いとか1年目とか関係なくて、東レの人として見られているんだから、誠実な1人の代表者になれるように、責任と自信をもって研究に取り組もうとそのとき思いました。
田中:研究だからうまくいかないことのほうが多いんですが、それを良しとしてくれる空気はあります。とはいえ、学生の時は、1つのことが上手くいかなくても、次の策はその時に考えようという感じでやっていましたが、会社ではそうはいきません。先の先を読むというか、常に次どうするかを考えておく必要がある。そこは学生との大きな違いだと感じました。
また、学生の時は性能を上げて良い数値を出すことが最終ゴールで、そこで喜んでいたけれど、今は、性能を出した上で最終的な製品でどう生きてくるのか、コストも含めてお取引先にとってどういうメリットがあるのかが求められる。そこで意識の持ちようが大きく変わりました。
山本:上司から「ヘリコプタービューを持て」というアドバイスをもらったときに意識が変わりました。俯瞰的な視点を身につけるということです。田中さんがおっしゃったように常に先を考えることにも通じますが、次の一手を考えて検討していくことが企業の研究者として必要だと感じています。
北村:お金をもらって研究している以上、止まっているわけにはいかないんですよね。駄目でもやれることをやるのが研究。私も「今、手を動かしているもの以外に案を3つ予備で持っておくように」と教えてもらいました。駄目になったから次を考えようじゃなくて、他を持っておいたら立ち止まらず動けるので時間的なロスも防げる。常に自分でアンテナを張る良いサイクルにもなるから、心掛けています。
―今感じている課題や挑戦していることはありますか?
阿久津:やっぱり今は、まだまだ人から言われて動く割合のほうが多いかなと思います。本来研究者に求められているのは、「こんな面白いことを考えましたよ」というような新しいアイデアだと思うので、もう少しそういうところで自分らしさが出せたらいいなと。なかなかそういうことが得意ではないけれど、まずは真似でもいいから新しいことをやってみようと思っています。
田中:自分の手を動かしてする実験はもちろん、報告書を書いたり、書類や資料を作成したり、日々いろいろなタスクがありますが、どうしてもすべてにまだまだ時間がかかってしまうところは課題のひとつです。先輩たちは驚くほど速いんですよ。僕ももっと効率よく、文章作成などにかける時間を短縮して、実験やアイデアを考える時間に回せるように考えていきたいと思っています。
山本:相手の立場に立ってものを考えて発言するということが一番自分の中では課題かなと考えています。社内も社外も全部含めて。事業部の方々と一緒に話をしたり、またはAIを扱う人間として同じテーマのグループ内の人と意見を交わしたり、提案や打ち合わせをしたりすることがありますが、事業部の方々の中では暗黙の了解としてあることが自分たちはわからないし、逆にAIでできることについて説明しようと思ってもなかなか伝わらない。そこのギャップを埋めていくためには、お互いの立場を理解する必要があると思っています。
研究者?管理職?思い描く未来への希望と不安
―これから東レで仕事を続けるなかで、思い描く理想の姿はありますか?
阿久津:変わったキャリアだねって言われる人になりたいと思っています。自分がまだ知らないような仕事や職種とかになることも歓迎です。今の研究職も楽しいし成り立ってはいるけれど、「なぜここに異動したの?」って驚かれるようなもっとぶっ飛んだキャリアになるのも良いなと(笑)。研究だけに全然こだわってはいません。その方が自分らしいかなとは最近思い始めてきたところです。
田中:僕自身は何にでも取り組みたい性格なんです。「極限追求」と反しているかもしれないですが、同じテーマをずっとやるよりは数年ごとにテーマを変えていきたい。今興味があるのがAIの分野で、データ分析もおもしろそうだなと思っています。ひとつにこだわりすぎるのは違うかなと最近思い始めています。
山本:研究は好きですけど、自分はたぶん何かを突き詰めて作るのが好きなんです。それは物として作るだけじゃなくて数式みたいな理論としても好きで、そういうものを作れる仕事に携われれば、たぶん自分はどこでもOKなんじゃないのかなと思っています。
北村:私も研究にこだわっているわけではないけれど、自分に合う、働きやすいのは研究なのかなと思っています。ワークとライフのバランスが取れるので、将来の自分がイメージしやすい環境って結構大事だなと感じています。ただ、未来の姿を考えると管理職はマネジメント業にどうしてもなっちゃうんですよね。
田中:まだ僕たちはたぶん手を動かしている層だと思うので、研究8年目から10年目くらいになるとそういう悩みや迷いが生まれるかもしれないですね。
阿久津:だんだん動かすのが、手から脳になりそうですよね。東レの研究職で働く人の多くは、手を動かして実験することが好きで入った人だと思う。でも会社から求められていることは、将来的にリーダーや管理職になることだとしたら、どこかでギャップを感じることがあるかもしれないなとは思いますね。どっちもやってくださいって言われたら悩むだろうし、そのバランスが難しいですね。
「私たちがこれを作ったんだよ」そう誇れる製品や価値を生み出したい
―未来を担う皆さんが東レの研究者としてどんな技術で未来を作っていきたいですか?
北村:やっぱり先端素材、今までにないより価値の高いものは作っていきたいなと思います。それを自分たちの生活や社会に役立てられたら嬉しいです。今自分がやっている研究をちゃんと進めて形にすることで、省エネなど環境問題の課題解決につながればいいなと思います。
阿久津:ヒートテックのように、みなさんが気づかないところで役に立っている商品があって、「これ東レが作っているんだよ」と言えたらやっぱり誇りではありますよね。これまで目につかなかったもののすごさを、少しだけでもわかってくれる人がいて、いい意味で自慢できるというか。「これをやったんだよ」と胸を張って言える良いものがひとつでもできたらいいかなって。
あとは、小さな目標ですが、自分1人分の頑張りで1人だけ助かるというのは等価交換すぎるので、2人以上は助かるようなものを目指していきたい。そういうことを積み重ねていくことで、自分が働いた意味を作れるんじゃないかなと思っています。
田中:そうですね。これ自分が作ったんだよって将来子どもや家族に言えたら格好いいですよね。最終的な自分の願望としてはそこかもしれない。そこに至らずとも今取り組んでいるカーボンニュートラル関係の取り組みが、地球環境の貢献につながればいいなと思っています。
山本:私は、文字に残る仕事をやりたいと思っています。ヒートテックのような、一つの分野のマイルストーンとして残り続ける仕事に自分が関わったんだよって言えるようになりたいというのがひとつ。これが社外に対しての目標です。
社内でいうと、新入社員は残業など働き方で不安に感じている人も多いと思うのですが、そこをAIの力で効率化させていくこと。そうすることによって、若い世代もゆっくり落ち着いて研究や仕事に専念できるかなと。安心して研究や仕事を進められるような体制を作るというのが社内に対しての私の目標です。