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先輩からの後押しで実現。動物薬の収量改善に挑んだ「30年越しの一歩」

東レで働く一人ひとりに、仕事との向き合い方、大切にしている価値観などを伺いながら、“仕事観”について探っていく本企画。
第1回目となる今回は、動物薬室・篠田知果を訪ねて東レ愛媛工場へ。入社2年目にして挑戦したのは、ノーベル賞受賞技術に着目した「30年越しの一歩」。既存の猫・犬のウイルス感染症に処方される動物用医薬品「インターキャット🄬」の有効成分インターフェロン(IFN)の生産において長年抱えていた収量の課題にメスを入れ、収量向上の兆しが見えてきました。 

篠田さんの仕事
販売開始30年の歴史を持つ、インターフェロン(IFN)を主成分にした動物用医薬品「インターキャット🄬」は、販売当初から生産過程にてIFNの一部が分解され、ロスが発生していることは認識しつつ、「こういうもの」「しょうがないこと」とロス改善に対して取り組みはされてきませんでした。そこで、篠田さんは過去の知見を踏まえて細胞レベルの検証を行い、IFN分解要因を特定。ノーベル賞受賞技術でもあるゲノム編集技術に着目し導入することで、IFN分解を抑制することに成功しました。
インターフェロン(IFN):動物体内で病原体や腫瘍細胞などの異物の侵入に反応して細胞が分泌するタンパク質のこと。

先輩からの後押しで、30年続く動物薬製品の課題解決に挑戦

篠田知果。愛媛工場 動物薬室の技術グループに所属後、猫・犬のウイルス感染症の治療薬「インターキャット🄬」の生産技術開発、猫の慢性腎臓病薬「ラプロス🄬」の技術開発、新薬開発などに携わる。

―篠田さんは入社3年目ですが、そもそも東レに入社を決めた理由を教えてください。

篠田知果(以下、篠田):大学では薬学部創薬科学専攻で、就活をしているタイミングで研究室の教授から推薦をいただいたのがきっかけです。正直最初は薬にこだわってはいなくて、食品メーカーや化粧品メーカーなどもっと生活に身近な商品のものづくりに携わりたいなと漠然と思っていたところでした。実家で犬を飼っていたこともあり、巡り巡って愛犬に何か返せるものがあるかもしれないと思い入社を志望しました。

―入社してから現在はどういったお仕事の内容ですか? 

篠田:動物薬室の技術グループに所属しています。東レで生産・販売している猫・犬のウイルス感染症の薬「インターキャット🄬」の生産技術開発と、猫の慢性腎臓病薬「ラプロス🄬」の技術開発を担当しています。また最近は新薬開発も担当。動物って薬をなかなか食べてくれなくて苦労する飼い主さんも多いと思いますが、動物の嗜好性が高い新薬を目指して研究しています。

―IFNの収量改善に着手したきっかけについて教えてください。 

篠田:上司の田中さんとの技術ミーティングがきっかけでした。2週に一度実施していますが、いつも「どういうことがしてみたい?」と聞いていただいたり、逆に田中さんが長く働いてきた中で解決したいけど手がつけられていない課題をもらったり。話を聞いていると、自分が大学で学んだ知識が生かせるのではと思い、課題解決に挑むことにしたんです。

―具体的に生かした知識とは? 

篠田:大学での専攻が遺伝子工学で、トウモロコシなどの植物でよく利用されている遺伝子組換えなどについて学んでいたのですが、田中さんからもIFNの分解を抑制させたら収量が上がるんじゃないかとアドバイスをいただき、この薬を作る段階での技術改良で応用できないかなと思いました。 

―いつ頃からスタートしたのですか? 

篠田:実際に検討を開始したのはちょうど1年前ぐらい。2023年の3月頃からスタートしました。成果としてはまだ道半ばですが、見込みは見えてきた感じです。まだ検討が必要なのでもう少し積み重ねていきます。 

―今回、ノーベル賞受賞技術でもあるゲノム編集技術がカギになったそうですが、もともと知見があったのですか? 

篠田:その技術自体は大学時代の私の研究テーマではなかったのですが、研究室でテーマとして持っている人もいて、簡単な知識はあったという程度です。知見のある田中さんに、論文や特許を教えていただいたり、アドバイスをいただいたりしながら形にすることができました。また、本社の動物薬課の開発の方々には獣医師免許や基礎研究の経験をお持ちの方も多く、今回私がこのテーマに取り組んでいることを知ってわざわざ応援のメールをいただき励みにもなりました。

早く皆さんに追いつきたい、泥臭く勉強中です。

―販売以来、30年の歴史がある製品の改良に取り組むことにプレッシャーはありませんでしたか? 

篠田:常日頃から、皆さんに早く追いつきたいっていう気持ちがすごくあって。世代が一番近い先輩でも経験値が10年くらい違うので、日々の仕事の中でも「ああ、知識が全然足りないな」と感じることも多いんです。プレッシャーというより早く皆さんに追いつきたいという気持ちの方が強かったですね。経験値の差を埋めるには、今の私には知識面で補うしかない。とにかく泥臭く勉強するしかないと思っています。 

―研究を重ねる中で、苦労したことや挫折しそうになったことはありますか? 

篠田:研究ってそもそもスムーズにいくことの方が珍しい。最初からすぐには上手くいかないだろうと覚悟ができていた分、失敗しても落ち込むことはあまりありませんでした。失敗しても、「そういうものなんだ、別の方法を考えよう」と次に進もうという気持ちを大事にして取り組みました。 

―大学院での研究と企業での研究。研究という意味では同じですが、取り組み方や働き方に変化はありますか?

篠田:やはり対価が支払われる分、絶対に成果は求められるからこそ責任感が強くなったと思います。また小さな部署なのもありますが、室長や上司、工場の垣根を越えて本社の方々とここまで距離感近く会話できることは、入社前は想像していませんでした。思ったより自由で、のびのびとさせてもらっていると思います。普段の研究もこの環境あってこそだと感謝しています。
 

風習や上の意見に流されず、自分の意見を持つことを大事に。

―篠田さんが、お仕事で大切にしていることや意識していることはありますか? 

篠田:入社当時から大事にしているのは、「自分の意見を持つ」ということです。言葉にして言えるかどうかは別として…。 

―それを大事にしたいと思ったきっかけがあったのですか? 

篠田:学生時代に部活などをしてきた中で、上の人が言っているからといって全てが正しいわけではないということを感じていて。もちろん先輩は経験値があるので正しいことは正しいのですが、ただ言われたまま流されるだけというのはしたくないなと思っています。仕事でも同じ。伝統や風習、偉い人や大多数が言っていることが正しいとは限らない。「上司に言われたから」とそのままやるのではなく、まずはちゃんと自分で考えて疑問も流さず疑ってみることも大事。その上で、自分の意思で納得して取り組んでいきたいと思っています。 

―ずっと続いてきた習慣・やり方にも疑問や疑いを持って、改良を目指した取り組みにも通じる考え方ですね。自分の意見を相手に伝えるとき、どんなことを意識していますか? 

篠田:そのまま勢いに任せて言ってしまうときもあるんですけど(笑)、大きな会議のようなすぐに言えない場面では一旦持ち帰って、感じた疑問について確認します。自分の知識や経験不足で間違った捉え方をしているかもしれないので、調べたり上司にも確認したりして、間違ってないなと確信が持てたら、前置きとかを置いて波風を立てないように伝えているつもりですが…。難しいですね。上手く伝わらないことも多いです。

型にハマらず、チャレンジを。動物薬の第一人者を目指してほしい

動物薬室長の髙橋佳丈さん(写真左)と、篠田さんの上司でありよきアドバイザーでもある田中剛さん(写真右)

―篠田さんの上司でもある田中さんと室長の髙橋さんもちょうどいらっしゃったのでお話を伺えればと思います。田中さんは普段篠田さんとどんな風に接していますか? 

田中:仕事をする上で、何かしらやりがいを持って取り組んでもらえたらと思っています。篠田さんはいろいろなことに興味を持っていて、専門性も高い。仕事も楽しんでやってくれているようです。この収量改善の仕事が彼女の成長にもつながればと思いました。昔「君が働きやすい環境を作るのが僕の仕事」と言ってくれた上司がいて。僕も、やりがいを感じられる働きやすい環境を提供したいという気持ちがあります。 

―田中さんから見た篠田さんは、どんな人柄ですか? 

田中:芯は強いと思います。悪い言い方をすると頑固(笑)。それでも柔軟にいろいろなことを吸収しているところは、彼女の良いところだと思っています。

―お互いに意見を交わしやすい関係性を築けている様子ですが、室長の髙橋さんから見て篠田さんと田中さんのコンビネーションはいかがですか? 

髙橋:年齢は離れていますが、凸凹みたいな感じでお互いの良いところもそうでないところも補っているような良い関係性だと思います。田中さんは優しいですからね。いろいろな機会を与えてあげることで、篠田さんの成長につながっていると思います。 

―最後に、篠田さんに仕事でどんな風に働いてもらいたいと考えていますか?

髙橋:型にハマらず、新しい提案をしてどんどんチャレンジしていってもらいたいと思います。若いからこそできることがあると思うので。今後の動物薬事業拡大には、田中さんと篠田さんの技術開発が要になってくるので二人三脚で頑張ってもらいたいですね。

田中:希望としては動物薬の技術の第一人者として活躍する人材に成長してくれたらと願っています。これからの環境でもだいぶ変わってくるのかもしれませんが、将来的にはそうなってほしいなと期待しています。

篠田:こうやって長く続いてきた製品の収量改善や、新薬の開発に携わることができているのも、今の環境や皆さんの協力あってこそIFN製剤や担当している新薬を早く開発させたいっていうのが今は一番の望みです。

篠田知果
2022年入社。薬学部 創薬科学専攻を卒業。動物薬室の技術グループに所属後、猫・犬のウイルス感染症の治療薬「インターキャット🄬」の生産技術開発、猫の慢性腎臓病薬「ラプロス🄬」の技術開発、新薬開発などに携わる。趣味は、旅行や韓国ドラマ鑑賞。