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愛媛工場を花でいっぱいに。「工場排水から生まれた美花活動」で笑顔溢れる職場へ

東レで働く一人ひとりに、仕事との向き合い方、大切にしている価値観などを伺いながら、“仕事観”について探っていく「わたしの仕事観」。

今回は、愛媛工場の繊維製造部での業務の1つとして愛媛工場全体の排水処理を担当する二宮一歩に話を伺います。工場運営にとって非常に重要な排水処理の仕事は、わずかな異常も見逃さないよう常に神経を使う過酷な現場でもあります。

少しでもスムーズに処理できるように、少しでも社員のみんなが働きやすい環境になるように、そして協力してくれる他部署の皆さんや会社に恩返しがしたい。そんな温かい気持ちで挑戦したのが、排水処理工程でできる処理水と土を使った「美花活動」。

マリーゴールドにミニバラに、菜の花やラナンキュラス…。いま愛媛工場には、園芸部の皆さん、社員が育てたカラフルな鉢植えが至るところに並んでいます。

二宮さんの仕事
繊維・樹脂・炭素繊維複合材料・水処理膜などの製品の各製造工程から流れる化学物質を含んだ廃水を、排水処理を行い無害化するのが二宮さんの仕事です。勤続30年の節目に工場に恩返しをしたいと考えた二宮さん。「排水処理工程の処理水と余剰汚泥を利用して、花を育ててみよう。そして社員のみんなに喜んでもらおう」と、花の種を自ら購入して「美花活動」を始めました。花を育てることで、廃棄予定の余剰汚泥削減に、排水処理の仕事をスムーズに、関わる他部署の社員の仕事への向き合い方にも良い影響を与えています。


水をきれいにして土をつくる排水処理の仕事とは

二宮一歩。1993年より愛媛工場に勤務し、現在はアクリル繊維用ポリマーの重合設備運転・管理及び、愛媛工場東地区排水処理設備の運転・管理の掛け持ちで担当。園芸部の部長も務める。

―二宮さんの仕事について教えてください。

二宮一歩(以下、二宮):現在は、アクリル繊維用ポリマーの重合設備運転・管理と、愛媛工場排水処理設備の運転・管理を兼任しています。入社後、品質管理を担当していましたが、家庭の事情で交代制の部署に異動願いを出し、排水処理を行う現在の部署に配属となり25年になります。

―排水処理とはどんな仕事でしょうか?

二宮:繊維や樹脂、炭素繊維複合材料、水処理膜などの各製造工程で出るさまざまな化学物質を含んだ水がここに集まるのですが、それをASM(活性汚泥法)で調整しながら排水処理を行い、無害化して排出しています。簡単にいうと、「汚れた『廃水』をきれいにして『排水』に変える仕事」「工場から出た水で土を作る仕事」です。

―土が作られるのですか?

二宮:微生物を使って汚水をきれいにするASM(活性汚泥法)で行う排水処理では、タンク内で廃水を活性汚泥と呼ばれる微生物が分解してくれることで、処理水と余剰汚泥ができるんです。これは、タンクの中に生態系ができていて、食物連鎖によって処理する仕組みです。
その後、泥を沈殿させて上澄みの水を処理水として排出させる方法です。処理水と土に分けられますが、土は半年間発酵処理させて最終的には肥料にしたり処分したりしていました。ちなみに土というのは、そもそも生物の死骸や枯れた草木。だからここでは微生物たちが土になっているということなんです。

―その土で花を育てたというわけですね。

二宮:はい、排出された土の一部を利用して花を育てています。まずは自分で種を買ってきて育ててみたのが始まりです。毎日の水やりには、処理水を使っています。

工場を花でいっぱいに。排水処理工程から生まれた「美花活動」

水処理場の前には、たくさんの花が咲いて、みんなの憩いの場になっている。


―「美花活動」を始めようと思ったきっかけは何だったのですか?

二宮:勤続30年の節目に工場に何か恩返しをしたいと考えていたところ思いついたんです。「花を咲かせることで感謝の気持ちを伝えたい」「花を届けることで工場内に癒やしを届けたい」。そして、「処理水の安全性を視覚化したい」という思いがありました。あとは、排水処理という仕事のネガティブなイメージを払拭したかったのもあります。

ここでの排水処理の仕事は想像より大変なのです。特に配属された当時は機能素材の生産が増え始めた頃で処理がスムーズにできないことも多く、かなりの負担でした。環境問題や工場全体の生産に直結する重要な任務でもありプレッシャーを感じることもあります。また「排水」ということで、どうしても「汚い、臭い」というイメージもあり、人があまり近寄らない場所でした。

―処理が難しい原因はなんだったのですか?

二宮:東レで開発している消臭や抗菌などの機能がある素材の製造工程から出る廃水は、微生物で処理しにくいんです。処理するためには、先にそれらの機能成分を除去してからでないとできません。なかなかスムーズにいかないことも多くて。業務の大変さや職場環境の点などから、配属された人が定着しないこともこの部署の課題のひとつでした。

それならば、仕事の内容を、「土を作る」でも、「廃水を排水に変える」でもなく、「土を使ってきれいな水で花を育てるのが私たちの仕事」ということにすればどうだろうと。理解してもらいやすいし、最終目標を変えて捉え直すようにしました。愛情をかけてかわいがれば、花もよく育つし、排水処理もうまくいきます。

茶色く見えるのは大量の微生物が含まれているから。この微生物が水を綺麗にしてくれます。


―そうして、工場内にこんなに花が増えたのですね。

二宮:そうなんです。でもただ花を育てることだけでなく、排水処理に協力していただいた部署、つまり廃水を出している製造部署に協力してくれたお礼として花をプレゼントしているんです。一緒に種まきをしてくれた方もいて、皆さん楽しんでくれています。

同じ会社の社員なので、廃水を出す部署と処理する部署がお互いに無関心なのは良くない。みんなで協力し合って、少しでも良い会社にしようという気持ちを大切にしています。

―どんな協力をしてもらっていますか?

二宮:各製造部署から出る廃水を処理しやすい水にしてもらったり、生産する品種を変えるときなどは、事前にその情報がこちらに共有されていると排水処理もスムーズに行うことができます。ですので、廃水が出てからの対応ではなく、事前に連携していくという協力体制をお互いに作っていくということです。現在は、連携が非常に良く出来ているので、かなりスムーズな仕事環境になりました。そのお礼に花を贈っているのです。

もっと働きやすい職場に。花を通じて社内に生まれた変化

―花によって仕事のしやすさや、みなさんの仕事に対する姿勢まで変化しているのですね。

二宮:私自身も、排水中の抗菌成分や洗浄剤などの薬品の除去がうまくいかずに残留すると、植物を枯らせてしまうことになるので、処理水の水質維持はこれまで以上に徹底して行うようになりました。以前は、排水の基準を満たしていればいいという気持ちもありましたが、花のために水質をより良くしたいと思うとモチベーションも上がります。廃棄予定の土を美花活動に使うことで、3ヶ月で300kgも削減することができました。

活動当初は、「この土で本当に花が育つのか?」という疑問の声もありましたが、処理水と土でこんなにたくさんの花が咲いて、処理水の安全性を証明することもできたと思います。

また、自分たちが出した廃水が目の前で咲く花につながっていると感じるようになると、排水に対する意識が全社でも変わったと思います。
もっと働きやすい職場になればと、いろいろなところに花を飾ってもらっています。花があることで、水やりの時や花が咲いた時など、仕事以外の会話も増えたと聞きます。

―二宮さんはもともと花が好きだったのですか?園芸部も発足したのだとか。

二宮:これまでは花を育てたこともなかったし、飾ることもしていませんでした。仕事がスムーズになって心にも時間にも余裕ができたから始められたことです。

2024年2月には園芸部も発足させました。園芸部を作ろうと思ったのは、同じく東レで働く妻のためでもあります。いろいろな部活があるのですが、運動部がほとんど。女性や障がいがある方でも、パートの方でも、誰でも入れる文化部を作りたいと思って作りました。

鉢植えには一人ひとりのメッセージを記載。役員を含め、愛媛工場を訪れた他の工場の社員にも花を植えてもらっている。社外の方に植えてもらうこともあるそう。

―仕事がしやすくなるよう他部署の皆さんとコミュニケーションを取ったり、園芸部を作ったり、花を育てたり。そういった取り組みの軸にはどんな思いがあるのですか?

二宮:みんなが少しでも働きやすい工場にしたい。そのためにはどうすればいいかということが起点になっています。妻が働きやすくなるためにどうすればいいか。もし娘が働くならこういう会社にしたいとか。「人が働きやすくなるには?」「仕事がスムーズにできるには?」といつも考えを巡らせています。

自分の同僚や家族が働くときに働きやすい場所を目指しています。社員は家族みたいなものですからね。私の先輩もそうしてくれていたんです。こういう気持ちは東レの良い文化だと思っています。

―同じ職場で排水処理の業務を行なっている窪田恭佑さんにもお話を伺います。この部署ではどのくらい働いていますか?二宮さんと一緒に取り組みに参加されていて感じることを教えてください。

窪田恭佑さん

窪田恭佑(以下、窪田):キャリア採用で配属されて12年くらいになります。私が配属になるまでは、本当に入れ替わり立ち替わり異動していたようで、最初に配属された時は「大丈夫かな?」と、正直心配に思う部分もありました(笑)。

それでも二宮さんのおかげで、なんとか頑張れています。5年くらい前から排水技術も向上して、設備も良くなりました。安定化が図られているので、つきっきりで見ることもなくなり、今はとても働きやすくなっています。

―たくさん花が育っていますが、仕事へのモチベーションにも繋がりますか?

窪田:二宮さんもおっしゃられたように、普段は社員が集まるような場所ではなかったんです。それが、今では通りすがりに花を見ていく人や遊びに来てくれる人までいます。本当に明るい雰囲気になりました。

より排水処理をスムーズに。システムを開発中

―ほかにも挑戦していることがあるそうですね。

二宮:排水の予測システムを開発しているところです。天気予報って、昔はツバメが低く飛んだらとか雲の様子とかそういったことで予報していたけど、今は天気図や気温、過去の事例から長期予報ができるようになっていますよね。私の仕事は、排水処理の調子が悪くなるのを予測して、アクションをとることです。これが同じようにコンピューターで予測できないかと、システムを作っているところです。

―そのシステムができるとより仕事がスムーズになるのでしょうか?

二宮:6時間後、12時間後…といった感じで工場の出口の水がどういう状態かわかるようになります。過去の実績や現在の水温、入ってくる水の水質、処理する水の量などいろいろなデータが予測できます。微生物なので、空気を送り込んで呼吸させないといけないので、その消費量で微生物がどのくらい活動しているかをデータで読み込んでAIが予測します。これで仕事がさらに効率良くなっています。

まだ開発中ですが概ね完成しています。排水処理を担う人の中には、常に寝泊まりして監視しながら状況を判断することにプレッシャーを感じていたり、排水の調子が悪くなったら責任を感じて眠れないという声もありました。これからはもっと働きやすい環境になるはずです。

―今後の展望を教えてください。

二宮:「美花活動」を通して、社内のコミュニケーションがこれまでより活発になって、社員が集まるような場所ではなかった処理場にも人が立ち寄ってくれるように。ここは園芸部の部室でもあるので、休憩していく人もいるし、お菓子などの差し入れをくれる人もいます。鉢植えを置いている棚や容器も、他の部署で不要になった廃材や引き出しなどを活用したりして再利用し、社内で循環も生まれています。

あと、排水処理施設はどの工場にもあって、先日全担当者が集まる交流会があったのですが、滋賀事業場でも同じように花を育てたいと、ちょうど問い合わせがあったところです。こんな風に他の工場にも広まってくれるといいなと思っています。

今考えているのが、東レ創立100周年の記念に、ここで育てた花を並べて花文字を作ることで、先日、今ある花でシミュレーションもしました。100周年に合わせて花が咲くように計画しているところです。

二宮一歩
1993年より愛媛工場に勤務し、現在はアクリル繊維用ポリマーの重合設備運転・管理及び、愛媛工場東地区排水処理設備の運転・管理の掛け持ちで担当。園芸部の部長も務める。休日は夫婦でお出かけ。特に最近は夫婦で園芸部活動に勤しむ。