冬をより快適にするために進化し続ける。『ヒートテック』を支える人々の想いと試行錯誤の道のり
オフィス、家庭、街……実は、さまざまなところで使われている東レの“素材”をもっと知ってほしい。そんな想いから「こんなところに東レです」という企画で長年社内報で連載をしてきました。まだ東レをあまり知らない社外の人にももっと知ってもらいたいと考え、東レnoteでは「+(プラス)」をつけて「こんなところに東レです+」として連載をしていくことになりました。
これから企画、開発、製品づくりなどさまざまな領域で東レのものづくりを支える「人」の魅力にフォーカスしながら、東レの“素材”をご紹介していきます。
今回、焦点を当てたのが、ユニクロの機能性ウェア『ヒートテック』。実はユニクロと東レの共同開発により誕生した製品だということをご存じでしたか?2003年から販売をスタートした『ヒートテック』は、「ヒートテック」「ヒートテックコットンエクストラウォーム(極暖)」「ヒートテックウルトラウォーム(超極暖)」と選べる3段階の暖かさでインナーを展開しており、トップス、ボトムス、ソックスなどラインアップも充実。東レのテクノロジーを駆使し、「薄いのに暖かく、快適な着心地」を追求しながら20年進化し続けてきました。
そして、2023年秋冬の新作として発売されたのがヒートテック史上最も薄い「ヒートテック ウルトラライト タートルネックTシャツ」。新開発の極細繊維を使用し、これまでにない薄さとなめらかさ、ふんわり感、暖かさを兼ね備えています。
「世の中にない新しいものを生み出したい」。生地の開発から製品になるまでを担うチーム5名と一緒に、開発のきっかけやそこに込められた想い、完成までの試行錯誤の道のりを振り返ります。
「薄くて、軽くて、暖かい」。ヒートテックのコンセプトを突き詰める
―今回、ご参加いただいたみなさんは、「ヒートテック ウルトラライト タートルネックTシャツ」開発のなかでどのようなことを担当されていたか教えてください。
森:私はユニクロさんとのインナー開発を担当しています。特に力を入れているのが、ヒートテックの新商品の開発。各担当と連携しながら、全体をとりまとめています。
製品づくりでは、東レだけでなく協力工場とも連携しながら行います。呉さんは、新しい工場を探してくれたり、新しいサプライチェーンを作ったりしていくというような役割がメイン。今回の「ヒートテック ウルトラライト タートルネックTシャツ」では、生地を量産していくにあたり難易度の高い生地を作れる優秀な工場をみつけてくれました。工場とパートナーを組みながら新しいものを開発するということを担ってくれています。
ただいくら優秀な工場であっても、ユニクロさんの求める品質に対応するためには技術力を上げる必要があります。その技術面でしっかりサポートしてくれたのが、田畑さんです。
そして原島さんは、開発した生地をどういった商品に落とし込んでいくかをユニクロさんと連携しながら、デザインや縫製仕様、縫製の品質レベルを工場と詰めていきます。
そのなかでたびたび起きる品質の問題を技術的な解決にあたってくれるのが成子さんです。
ここにいるメンバー5名を中心に、新しい工場を開拓して商品を作り、量産にうまくつなげて「ヒートテック ウルトラライト タートルネックTシャツ」が誕生しました。
―今シーズン発売となった「ヒートテック ウルトラライト タートルネックTシャツ」を開発することになった経緯を教えてください。
森 章恭(以下、森):「薄くて、軽くて、暖かい」というヒートテックのそもそものコンセプトを突き詰めていったとき、今まで作っていなかった、より細い糸で生地を作ったらどうだろうと、トライしたのが始まりです。
「薄くて、軽くて、暖かい」のコンセプトを突き詰めていくということは、ユニクロ・東レ両社が常に共通認識でもっていること。もともとのヒートテックはベア天竺*という素材からスタートしていますが、糸をさらに細くしたり、保温性の高い素材をプラスしたりといろいろな方法で年々進化しています。そこで、これまでを超えるような「もっと軽い」のに暖かい製品が作れないかと考えたんです。
田畑次郎(以下、田畑): 近年では、保温性をより高めるため、編み組織や起毛技術を活用することで、「極暖」「超極暖」の方向へバージョンアップしていましたが、薄くて暖かいことがヒートテックの一番の魅力。改めて「薄くて、軽くて、暖かい」というヒートテックの本来のコンセプトを突き詰めました。
森:その中で生まれた生地がちょっと透け感のある素材で、今のファッショントレンドでもあるシアー感ともマッチ。ユニクロさんの求めていたものとうまく合致したことも製品化を後押ししてくれました。
先進的な技術力でハードルを超えたい。新しい工場との取り組み
ー新しい生地の開発というのは、何からはじめるのでしょうか?
森:新しい生地を開発することは容易ではありません。今までの固定概念に捕らわれずに開発を行うため、新工場との新しい取り組みも視野に入れて、呉さんに工場を探してもらうところから始まりました。
呉 晶(以下、呉):中国は最新の自動化工場が進んでいます。コロナ禍だったので動画を取り寄せて田畑さんと森さんに意見をもらい、コロナ明けにすぐ現地へ視察に行きました。
森:中国の技術の進歩はすごく速いんです。これまでは巨大な工場にお願いしていましたが、規模が大きくなればなるほど設備を改良するにも投資が必要で、進化のスピードはどうしても遅くなってしまう。
だから、これまで築き上げた工場との関係を大切にしながらも、先進的な工場とも取り組みをすることで、お互いが成長するというモデルを目指すべきだと思ったんです。小さくてもいいから、優秀な工場を探してほしいと呉さんにお願いしました。
呉:今回一緒に生地の製作をした工場はかなり先進的。ボタンひとつで最後の生地まで出来あがる自動化工場を目指しています。導入されている設備も新しいし、難易度の高い生地が作れるのではと思いました。
森:とはいえ、ユニクロさんの品質の要求レベルはとても高く、世界でもトップレベル。最先端の技術を有する工場であってもユニクロさんが求める品質レベルを工場にしっかりと理解してもらい、さらに技術の底上げをする必要もありました。こうやって実現できたのも、呉さんや田畑さんが根気強く何度も何度も説明してくれたおかげ。さらに投げ出さずに応えてくれた工場にも感謝しています。
いくつもの課題をクリアして叶った。「薄さ・軽さ」と「暖かさ」の両立
―特に難しさを感じたところはどこでしょうか?
田畑:「ヒートテック ウルトラライト タートルネックTシャツ」には、これまでにない極細の糸を使用しています。その糸を編んだだけでは暖かさを担保できません。そこで、生地加工することで暖かさをアップしようと考えましたが、ここまで薄い生地に加工することは技術的にも非常に難しい。新しい工場がそこに挑戦してくれました。
―従来のヒートテックと比べてどのくらいの薄さですか?
成子 聡(以下、成子):従来のヒートテックよりも約20%軽量化しながら、同等の保温性を実現しました。
―これだけ薄い生地は、縫製するのも難しかったのでは?
原島 麻生美(以下、原島):従来の生地でも薄くて柔らかいのでとても高い技術力を必要とします。それがさらに薄いとなると……。縫製の難易度が上がってしまいます。吹けば飛んでしまうくらい軽い素材を普通に縫ってしまうと薄いが故にシワシワと波打ってしまう。縫製工場には、何度もテストランをしてまずは素材に慣れてもらうことから始め、今ここにあるようにきれいに縫えるようになるまではかなりの試行錯誤がありました。
また、デリケートな生地に合う縫い目で、かつ安定してきれいに縫えることも大切。そのためには縫い糸や縫製方法はもちろん、その組み合わせもベストなものを考えていく必要があります。
森:縫い糸や縫い方、ミシンの調子も無数に組み合わせがありますから。その中で原島さんがいろいろな条件を組み合わせて、どれが最適かをユニクロさんと一緒に検証します。それを導き出すまでにも相当な数の試作をされていたと思います。
―どうやって決めていくのですか?
原島:いきなり製品に落とし込むのではなく、まずはさまざま組み合わせのパターンでモックアップを作り、それぞれ50回洗濯した際の耐久性を検証します。それをクリアしたら製品サンプルを作り、社員によるモニター検証を実施。東レでは30名でのモニター検証を数回、ユニクロさんでも100名のモニター検証を行い徹底的に検証しました。数人でもネガティブコメントが出たらすぐにストップして解決方法を相談。すべてをクリアしたら、ようやく縫製の仕様が決定して量産へと動き出せるんです。
―他にはどんな課題がありましたか?
成子:通常の生地は熱をかけて形態を安定させますが、今回は柔らかさを重視しているので、安定しにくい素材。そのため、生地の端がカールしたり、幅にばらつきが出たり、少し引っ張ると変形してしまったり……。次々と問題が起きるなか、生地の改善や裁断方法など工場と連携しながら最適解をみつけていきました。
原島:最後にパッケージに入れてやれやれと安堵していたら、パッケージから出す時フックに生地が引っかかってしまうんじゃないかと検品中に気づいたということもありましたよね。生地の薄さゆえ、想定外のことが次々と起こりましたね。
新しいものを生み出したい。実現したのは、このメンバーだからこそ
―開発当初は反対の声もあったとか。それでも乗り越えようと奮い立たせてくれる原動力はどこにありますか?
田畑:最初は両社から品質に対して不安視する声も多く、四面楚歌の状態に心が折れそうにはなりました。それでも、「新しいものを世の中に出したい」という想いは大きな原動力です。何度もテストして出したデータを提出したり、根気強く説得したりと、できることはすべてやりました。不安を解消するために、成子さんは新しい中国の工場に常駐までしてくれてね。
成子:みんなで作り上げた商品を消費者の方に手に取ってもらって認められると嬉しいですし、会社にとっても売り上げにつながります。素材だけでなく、商品も意識しながら形にしていくというところに楽しさも覚えますし、原動力になっています。
呉:私たちが良い商品を作って、それを世の中の人たちが着て、いいなと思ってもらえることが一番の原動力です。次もまたがんばろうとモチベーションになります。
原島:ユニクロさんは世界をリードする企業。ユニクロさんと一緒に、世の中を変えていくものを生み出していける。近くで見ていておもしろいですよね。
森:どんな商品を出せば売れるのか。みんな常に考えています。商品価値が認められ、お客さんがたくさん手に取ってくれるという事はやはりモチベーションを上げてくれる要素のひとつ。そのためにも、新しいものを生み出したいという想いは常に持っています。
なによりも、新しいことにチャレンジするのが好きなメンバーなんですよね。失敗を恐れずチャレンジすることにおもしろみを感じて、前向きに考えてくれたからこそ実現できたと思っています。このメンバーが居なかったら、今回の製品化は難しかったかもしれません。
―ヒートテックの課題やこれからの姿をどう思い描いていますか?
森:いま、ヒートテックは日本では多くの人に着て頂いていますが、海外ではインナーを着る文化がない国もあるようです。ただ今後ユニクロさんは海外への展開を拡大していくはずです。そこでどれだけヒートテックを広く認知してもらうかというところが重要だと思っています。
日本と海外では、洗濯方法にも、インナーに求めることにも違いがあり、現地の声をしっかりと商品に反映させていくことが重要になります。そのためには技術革新も必要になるかもしれない。今後はこれまで以上に、海外の声をもっと集められるような仕組みも作っていきたいと思っています。
原島:海外で求められる商品をこれからどんどん開発していかないといけないと思っています。そうすることで、また新しいおもしろい生地を生み出すことができるかもしれない。縫製難易度もどんどん高くなるかもしれませんが、楽しみでもあります。しっかり品質を担保できるようにいろいろなところにアンテナを張って、サポートしていけたらと思っています。
呉:私も、チームが目指す新しい製品づくりをしっかりサポートできるように頑張りたいと思っています。
田畑:大きな変化を生み出せるユニクロさんの仕事はとてもやりがいがあるし、スピード感を持って仕事ができる。仕事に対するモチベーションもあがりますよね。今後も新しいものをどんどん作り出していきたいと思います。
成子:ヒートテックは長い歴史で、暖かさとか快適性を求めてきました。快適性といっても着た瞬間から暖かい方がいいとか、蒸れない方がいいとか、いろんな切り口があると思っています。どんなものが求められているのかしっかり考えて、着た時に新鮮な驚きを届けられるような開発を目指していきたいと思っています。
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